第11回日本Glycemic Index 研究会に寄せて

 戦前(第二次世界大戦以前)生まれの私にとっては、GI(ジーアイ)ということを聞くと子供達にチューインガムやチョコレートを呉れた進駐軍のアメリカの兵隊さん達を思い起こす年代です。近年では、臨床栄養学の分野を中心にGIという語句をしばしば目にする機会が多くなってまいりました。

 

 しかし、相当な数の栄養学分野の方々のおられるなかでも、そして知っていて欲しい糖尿病や肥満症の分野を専門としている医師のなかでも、今でいうGIという語句を正確に理解しておられるかたは極めて少ないと思われるのは、大変残念なことです。
臨床栄養学でいうGIという場合は、glycemic index という語句を略して、GIと書き、ジーアイと読んでいるのです。 ところが栄養関係の専門家でもglycemic index をグリセミックインデックスと読んでいるひとが大半です。 当然ながらこの語は英語ですのでグリセミックとは絶対に発音致しません。 なぜ、そうなったのかといいますと、昔はいまでいう生化学的な術語はドイツ語から学んだ時期が長くあり、Glykogenをグリコーゲンというように日本語にしていたのです。 英語では、glycogenは発音的にはグラィコジェンです。 英語の語句から始まっている語句で、正式に日本語の術語が決まっていない英語のglycemic indexについては、グライセミックと話し、そしてそう書いて頂きたいものです。

 

 糖尿病を中心とする分野では、古くから食品交換表による食事指導が広く行われ続けてきました。しかし、これは糖尿病など食後の高血糖が問題となり、これを抑えるための対策としての食事の選択が大事な状態に対しては、必ずしも適切な情報ではありません。食品交換表では糖質を主とする食品では、摂取カロリー量として同じ場合にどういうものが該当するかを示すのに役立つ一覧表ではあります。

 しかし、それを摂取した場合に食後の血糖値がどのくらいに影響を受けるかが必ずしも同じ程度のものを示してくれる表ではないのです。従って、食後の血糖値を出来るだけ上昇させないようにすることを求められる状態の場合には、前述のGIの値こそ注目されるべきことなのです。いまでも日常茶飯事のごとく、マスコミを通じて流れてくる多くの情報のなかには、食べる前の食品の構成分としての値は出てくるのですが、実際にヒトが食べた場合にどの程度食後の血糖値に影響を与えるかについて考慮した記述は極めて少ないのです。このことにはもっともっと目を向けなければなりません。一般のかたがたにすぐ役立つような情報こそ繰り返し沢山流してあげるべきではないでしょうか。こういう点から、この10年間積極的に日本人が日本で日常よく食べている食品についてのglycemic indexを勉強する研究会を開いてきました。これが2012年7月8日(日)に第11回を迎える日本Glycemic Index 研究会です。 この詳しい情報についてはインターネットでぜひご覧下さい(http://www.gikenkyukai.com)。また、これについては最近適切な解説書も上梓されましたので、ぜひご覧頂きたいところです(臨床栄養のためのGlycemic Index :第一出版、2011)。

 

  ただ、GIの値についてもこれはあくまでも単品で食べた場合にどうかということで、食品の調理方法、献立、組み合わせ、食べる順序、食べる速さ、咀嚼の具合などいろいろな条件で血糖値への反映が違ってくることにも充分配慮が必要ですし、食べるかたの食道、胃、小腸、大腸の形や機能、胃液、膵臓からの膵液の分泌量、肝臓の働きなど複雑な消化、吸収、代謝の過程の変化で影響を受けることは言うまでもありません。

 しかし、今の時代では、glycemic index の考え方の知識なくしては、一般の方への食事指導は適切には行い得ないことを充分に認識して頂きたいと思います。 この面からも、今回第11回の特別講演として行われる西村理明先生の持続血糖モニター(CGM)についての演題は、大変楽しみなお話です。 そして、青江誠一郎先生による教育講演での耐糖能に及ぼす食物繊維の効果の問題も期待するところ大でしょう。

 

 

田中照二

日本Glycemic Index 研究会 代表幹事

東京慈恵会医科大学 客員教授

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