第13回日本Glycemic Index 研究会に寄せて
日本Glycemic Index研究会は、このたび第13回を迎えました。今回から小生が代表幹事として、会の運営に関してお世話をするように仰せつかりました。もとより浅学ではありますが微力ながらお役に立つよう精進する所存ですので、田中照二先生をはじめ研究会の幹事の方、会員の皆様におかれましては何卒、よろしくご指導のほどお願い申し上げます。
さてこの研究会では早い時期から、食事を摂ったあとに引き起こされるダイナミックな代謝変化について、摂取する食物との関係に着眼することで貴重な研究を進めて参ったところです。そこではGI値からみた食品と食後の血糖上昇が主なテーマになっていました。一方、それより後になり糖代謝異常の病態の更なる解明と新規治療薬の開発がなされ、糖尿病の治療概念も変化しました。それはさらに食事療法や栄養学の面にも、影響をもたらしつつあります。例えば、GLP-1・GIPという消化管ホルモン;インクレチンの病態への関わりの解明と薬物療法への応用がなされたことが挙げられます。治療薬としてもGLP-1受容体作動薬と、インクレチンの分解に関与するDPP4の阻害作用を持つ薬物が、日常臨床に登場したのです。GLP-1は生理的にも食物による消化管への刺激により血中へ放出され、消化管自体を始め膵内分泌や脳といった様々な臓器の働きに関与します。この中でGIPとGLP-1とは異なった生理作用を有し、特に脂肪の合成や食後血糖の調節に大きく相違のあることが判ってきました。これからはインクレチンの作用にうまく対応した、新たな観点に基づく食事療法が本研究会で検討されるに違いありません。
さらに、今年になって別の新規糖尿病治療薬が登場しました。それは尿糖の再吸収に関わる腎の尿細管トランスポータ;SGLT2を阻害して尿糖排泄を促進する全く新しい作用機序の薬剤です。この薬剤による糖尿病治療が注目されるのは、栄養学的にも関係が深いからであります。その一つには、多くの量の尿糖を排泄するために、代償的な糖新生機構が作働することです。最終的なバランスは血糖の降下につながるのですが、脂肪分解によりグリセロール等の糖新生基質とともに脂肪酸も遊離することになります。このため治療開始後はケトン体が検出されるようになるため、合併症につながるようなレベルのケトーシスに進展しない、新たな観点に基づく食事療法の確立が求められるようになってきたのです。
以上のように転換期にある栄養学を鑑み今回の研究会では、現在最も糖尿病の食事療法に造詣の深い宇都宮一典教授に、特別講演をお願いしました。また教育講演として、五明紀春教授には食品のGIを含めた味噌の最近の研究成果をご発表頂きます。さらに、当研究会の林 進幹事には、当研究会における基準食について再検討の内容を、ご発表いただきます。一般演題には各所属の新進気鋭の研究者が興味深い演題について発表いただく予定です。ご参加の皆様の活発なご討議を期待申し上げる次第です。
2014(平成26)年7月6日
佐々木 敬
日本Glycemic Index研究会 代表幹事
東京慈恵会医科大学 総合医科学研究センター臨床医学研究所 教授